女性アナとのトラブル発生時は不同意性交等罪は施行されていない
2025年初頭、元SMAPのメンバーであり、長年にわたり日本の芸能界の第一線で活躍してきた中居正広氏に関するスキャンダルが一部週刊誌によって報道された。報道によると、過去に某女性アナウンサーと中居氏の間で「合意の有無をめぐるトラブル」があったとされ、芸能界内外で大きな波紋を呼んだ。

中居正広
ただし、この出来事が発生したとされる時期は、2023年7月13日に施行された改正刑法、いわゆる「不同意性交等罪」の適用前であることが明らかになっている。この記事では、この問題を法律的観点と芸能界への影響という二つの軸で読み解いていく。
問題の経緯と報道内容
週刊誌の報道によれば、当該の女性アナウンサーは数年前、仕事上で親しくなった中居氏と食事を共にするようになり、その後、双方のプライベートな関係に発展したという。しかしその過程において、「当人の同意があったのか否か」という点について、女性側が後になって不快感を抱いたという証言が報じられた。
この一件が刑事事件化されたわけではない。女性アナウンサー側が正式な告発を行ったわけでもなく、あくまで「関係者の証言」や「関係資料」を元に構成された報道であることは留意すべき点である。しかしながら、社会的影響力の大きな人物にまつわる報道だけに、ネット上では「不同意性交罪に該当するのでは」という声が一部で上がった。
「不同意性交等罪」とは何か?
この事件の法的評価において重要なのが、2023年に施行された改正刑法の新設条項、「不同意性交等罪」である。
これまで日本の刑法においては、強姦罪(強制性交等罪)を適用するには「暴行または脅迫」が明確に認定される必要があり、被害者の同意の有無だけでは立件が難しいとされてきた。この点が、国際的に「性暴力の立件が困難な日本」という批判を受けていた背景にある。
しかし、改正後は以下のように定義が変わった:
「相手の同意がない性交またはわいせつ行為」自体が違法となる。
つまり、暴行・脅迫といった“外形的な要素”がなくても、「同意のない性行為」は刑事罰の対象となるようになった。刑罰は1年以上の有期懲役となっており、極めて重い罪である。
この新法の意義は、性的同意に対する社会的理解を深めるとともに、立件のハードルを下げ、被害者の保護を重視した方向へと舵を切った点にある。
問題は「いつ」起きたのか
中居正広氏のトラブルが仮に実在したとしても、それが不同意性交等罪の施行前である場合、同法を遡って適用することはできない。これは「刑罰法規不遡及の原則」という、刑事法における基本原則によるものである。
刑法第6条にはこう記されている:
「法律の施行前に行われた行為については、その時に効力のあった法律による」
つまり、たとえ現行法であれば犯罪に当たる行為であっても、当時の法律にその規定がなければ、原則として処罰の対象にはならない。
したがって、今回の件はたとえ法的に問題があったとしても、現行の不同意性交等罪では裁くことはできない。
芸能界と「性加害」報道の影響
芸能界においては、たとえ法的責任が問われない場合であっても、倫理的・社会的責任を問われるケースがある。近年では、ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP.)をめぐる性加害問題の影響もあり、メディアや広告業界は所属タレントの過去の行動に対してより厳しい視線を向けるようになっている。
中居氏は2020年にジャニーズ事務所を独立し、現在は個人事務所「のんびりなかい」を通じて活動を続けている。長年にわたる実績と信頼感のあるキャリアを積んできた人物であるが、報道後は一部のレギュラー番組や広告の動向に注目が集まっている。
実際にいくつかのスポンサー企業が「事実関係の確認中」とコメントしたことから、仮に刑事責任がなかったとしても、ブランドイメージを損なうリスクとして評価されているのが現実である。
同意と沈黙、そして「グレーゾーン」
今回の件をめぐって議論を呼んでいるのは、「合意とは何か」「沈黙は同意とみなされるのか」という点である。
不同意性交等罪の成立には、積極的な「同意」がなかったことが重要とされており、「嫌だ」と言っていないからといって、それを同意と解釈することはできないというのが、現在の法解釈である。逆に言えば、旧法の時代においては、「明確な拒否がなければ犯罪とは認定されない」という、ある種の“グレーゾーン”が存在していた。
こうした点からも、今回の中居氏のケースに対し、「法的には白でも、倫理的にはどうか」という問いが生じているのだ。
今後に向けて:著名人と性の同意教育
この事件が大きな注目を集めた背景には、「有名人であっても過去の行為が問われる時代になった」という時代の変化がある。特にSNSや週刊誌報道が即座に広まる現在、過去の言動や行為が予想外の形で再評価されることも珍しくない。
一方で、同意に関する教育の普及が十分とは言いがたい現実もある。芸能界に限らず、すべての業界において「合意の重要性」「相手の意志の尊重」「沈黙=同意ではない」という知識と態度が求められている。
今後、社会的影響力のある人物こそ、率先してその姿勢を示すことが、信頼回復や風土改革の鍵となるだろう。
結びに
中居正広氏のトラブル報道は、真偽不明な部分も多く残る。しかし、その報道が「不同意性交等罪の施行前」に起きたものであることは、法的評価を考える上で極めて重要なポイントである。
社会的な風向きは大きく変わりつつある。過去と現在の価値観のはざまで、何が許され、何が問われるのか。私たちはその問いを、一人の芸能人をめぐるニュースに重ねて、深く考えるべき時代に来ている。
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